権利証がないときの売買
ピックアップコラム
2025/8.26
不動産の売買や贈与の登記申請において、売主は法務局に土地の権利証を提出する必要があります。平成17年頃から権利証は「登記識別情報」という12桁の英数字の組み合わせのパスワードに変わっています。このパスワードを法務局に通知することで従来の権利証を提出したことに

なります。
もし、売買の時に権利証や登記識別情報を無くしてしまった場合はどうなるのでしょうか。無くしてしまった場合に取れる方法を3つご紹介します。
1.事前通知
権利証・登記識別情報通知を提出しないまま登記を申請すると、登記申請後に法務局から元の所有者に対して「権利を失うこととなる登記が申請されたこと。間違いない場合は実印を押して期限内に返送する必要がある旨」の通知が本人限定郵便で届きます。この申請が自身が行ったもので間違いがなければ、届いた書類(回答書)に登記の申請書(司法書士に登記の申請を委任したときは委任状)に押したものと同じ実印を押印し、期限内に
法務局に持参するか返送します。
“期限内”とは、法務局が通知を発したときから2週間以内です。(届いてから2週間ではないので注意)期限内に法務局に返送されなかった場合や、印鑑が異なっていた場合は、登記の申請が却下されるため、登記を申請しなおす必要があります。そうなると、やり直している期間は買主にとっては所有者であるが、登記がされていない状態になります。「所有者であるが、登記がされていない状態」とは当事者以外の第三者に対して自身が所有者であることを対抗できなくなります。これは、売主が他の第三者に自分が所有者だと偽って不動産を売却するなど、二重譲渡のトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
このようなリスクがあるため、見知らぬ他人同士の売買や、銀行から借り入れをする場合などではまず利用されません。親族間での売買や贈与など、売買もしくは贈与の日と登記の日がずれても大きな問題にならず、当事者間でリスクを許容できるケースで利用されることが大半です。
売主(義務者)が法人の場合
通知の送付先が会社の本店に書留郵便で送られます。申請時に代表者の住所に宛てて送付を希望することを申出れば代表者の住所に送付されます。その時は本人限定郵便になります。
前住所通知
所有権に関する登記に関して、上記の事前通知の方法を取って申請をした時に、元所有者が登記申請の3か月以内に住所を変更していた時は前の住所にも通知をします。これは、元所有者に成りすました者が勝手に住所を移し、移した先で新たな実印を登録し、印鑑証明書の交付を受け、その印鑑証明書を使用して不正に登記の申請をすることを防止するために行うものです。よって、前住所通知は転送を要しない郵便物として送付され(転送不可)、当該通知に係る登記の申請について異議の申し出がなければ登記は実行されます。
例外
1 住所が変わった原因が、行政区画若しくはその名称の変更又は字若しくはその名称の変更である場合【綾歌郡綾歌町→丸亀市綾歌町】
2 最後にされた住所変更登記が申請から3か月以上経過している場合【直近でなければ、なりすましの可能性も低くなるだろう】
3 法第23条第2項の登記義務者が法人である場合【会社であれば、自然人に比べなりすましの可能性は低いだろう】
4 後述する本人確認情報の提供があった場合において、当該本人確認情報の内容により申請人が登記義務者であることが確実であると認められる場合【司法書士が前住所に行ってそこに本人が住んでいないことを確認した場合】
2.本人確認情報
登記手続きを担当する司法書士が売主と面談し、身分証明書など、本人確認ができる書類を確認して、『あなたがその不動産の所有者であること』を確認したという証明書を作成します。その司法書士作成の証明書を法務局に提出し、登記手続きを行うことができます。なお、面談とは直接会う必要があり、zoomなどのWEBの面談ではこの制度は使えません。
本人確認ができる書類として身分証明書のほかに、その不動産の所有者であることが推測できる資料も確認します。
身分証明書には1号書類と2号書類があり、1号書類は運転免許証やマイナンバーカード等顔写真のあるもの1点の提示で足ります。1号書類があるときは基本的にそれを用意していただきますが、顔写真入りの身分証明書をお持ちでない場合は、2号書類(健康保険証、母子健康手帳、身体障害者手帳など)を2つ用意していただく必要となります。
そのほか、固定資産税の納税通知書や同領収書、当時の売買契約書など、売主であれば持っているであろう書類を確認して、面談をした司法書士が「この人は売主本人だ」といった確証を強めていきます。作成する司法書士の責任は大きいため、司法書士報酬が数万円ほどかかります。これは万が一なりすましの被害にあってしまった場合に、司法書士は責任を追及されるので、その保証料のような意味合いがあるからです。
2´本人確認情報(売主が法人の場合)
売主が会社の時の本人確認情報は①会社の代表者②これに代わるべき者と面談をし、作成します。①は代表取締役ですが、②の「これ(代表者)に代わるべき者」とは誰の事でしょうか。これには明確な決まりはありませんが、一つの基準として次のものがあります。
「申請人が大企業等で代表者との面談が困難な場合であって,業務分担やその権限が社内規定等で明らかにされている場合」とされています。
よって,社員が10数名程度の小規模な法人であって,代表者との面談が困難とは言い難い場合は,代表者と面談をし,代表者の本人確認をしなければならないとされています。このような小規模の法人からの申請では,「これ(代表者)に代わるべき者」と面談した内容の本人確認情報の提供があったとしても,事前通知は省略することはできないと思われます。しかし,大企業”等“となっているためどの程度の規模の会社で代表者に代わるべき者との面談で差支えないかは登記官の判断となるので,事前の確認が必要です。上記はあくまで一つの基準を示したものにすぎません。とある法務局では従業員130人程度の県内の会社では,代表者の本人確認情報を求められたことがあります。登記官曰く,少なくとも県内の会社では代表者の本人確認
が必要との見解です。
業務権限証明書には、法人代用者から確認相手に登記手続きの権限を授権されていることが確認でき、会社実印が押されていることを要し,会社の印鑑証明書を提出します。
※このような取り扱いが一般的ですが、これには法的な根拠があるわけではありません。
以下は司法書士が作成する本人確認情報に関する条文です。
不動産登記法第23条第4項第1号
当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた場合であって、登記官が当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき。
→司法書士が作成した本人確認情報を添付したときは事前通知を省略できます。
といった内容なのですが,文の最後に「その内容を相当と認めるとき」とあります。
要するに,司法書士が本人確認情報を付けても,内容を登記官が相当と認めなければ,事前通知しますよ。ということらしいです。その認めないことの一つが,小規模の会社で「代表者に代わるべき者」の本人確認情報をした場合があると解釈します。
3公証役場
司法書士への登記委任状に公証人の認証をもらう方法です。
司法書士への登記委任状、印鑑証明書、身分証明書を公証役場に持参し、公証人の面前で署名捺印(実印で押印)します。公証人は身分証明書・印鑑証明書を確認したうえで、「本人であることに間違いがない」ことを認証します。
費用は3,500円程度かかりますが、2.の本人確認情報よりは安価で収まります。ご本人様自身で公証役場に行く必要があるので、平日に時間の取れる方、また、決済まで2週間はど時間の余裕がある方にお勧めです。公証人の認証がある委任状については、本人が作成したもので間違いないことが公に証明されるからこのような取り扱いも可能となります。